10月28日に津田塾大学の公開講座でお話しをさせて頂きました。現在は、講座の時よりもお腹が大きく重くなってきているので、ノートブックパソコンを持って講演に出向くのもしんどいかもしれません。数日経過するだけで体の状態が変わってくるので、妊婦としての目線、感覚も変わっていきます。
妊婦、胎児、乳幼児を表象する写真について感じていることを当事者としてお話しする機会を頂けたのはありがたいことでした。
以下、当日お見せした資料の抜粋です。
On Pregnancy
津田塾大学の講座に向けたメモ 1
韓国の写真家、ユン・ジョンミ(JeongMee Yoon, b.1969-) による、2005年から続けられているThe Pink & Blue Project。
彼女自身の5歳の娘が、ピンクがあまりにも好きで、ピンク色の洋服しか身につけたがらず、玩具もピンク色のものにこだわっていた、という経験から、さまざまな子どもたちを、その子どもの部屋の中に並べた玩具や洋服とともに撮影し始めました。いわゆる、environmental portrait(人物をその身の回りの環境を含めて表すポートレート)と呼ばれるジャンルの作品です。
撮影されているのは出自の国である韓国と、アメリカ合衆国の子どもたち。国籍、人種、文化的な背景は違えども、女の子はピンクのものに、男の子はブルーのものに囲まれている(つまりは親が買い与えている)ことから、現在の子どもをとりまく消費社会が室内に展開された縮図として垣間見られます。
アーティストステートメントのなかに引用されているテキストで興味深いのは、女の子はピンク、男の子はブルーという性差と色の価値観が第二次世界大戦後になって成立したものであるということ。1914年にアメリカの新聞では、「男の子にはピンクを、女の子にはブルーを使うように」と勧める文章が掲載されていたそうです。
Place M2 ギャラリー で開催されていた写真家の坂口トモユキさん の展覧会「Ita☆Sha 乙」の関連イベントのトークショー に参加させて頂きました。
坂口さんの作品は「MADO 」を4年前ぐらいに拝見していて興味深いと思っていて、写真集『HOME』 を2008年にアメリカから一年暮らした後に帰ってきた頃に目にして、郊外住宅地の空間の特徴がとても新鮮に映った記憶があります。トークショーでは、それまでの作品制作の経緯をふまえて、インターネット環境の変遷、ネットを通した反響、デジタルカメラやフォトショップを駆使した制作のプロセス、「痛車」を巡る状況、iPadアプリ「Ita☆Sha 」などさまざまなトピックを伺うことができました。
私自身は、車も所有しておらず(日本とアメリカで数回レンタカーで運転した程度、ほぼペーパードライバー)、アニメやゲームなどいわゆるオタク文化にも馴染みが薄いので、普段あまり接点のない分野の話が伺えて興味深かったです。ipadアプリも拝見しましたが、プリントでの展示とはまた違う見え方をするので、反響やこれからの展開が楽しみです。
「Ita☆Sha」ipad アプリはこちら から購入できます。
トークショーの模様は、USTREAMで実況中継され、数人の方からリアルタイムで反応もあったようです。人様の前でお話をする仕事を10年近くさせて頂いてますが、こんな方法で視聴されたり、記録される時代になったのですねぇ、と感慨深い。録画でもご覧になれます。
妊娠が判明して以来、これまでに体験したことのないような変化を経つつあり、たえず自分の体の内側に注意が向いているような状態が続いています。また、日常生活の中でも乳幼児や妊婦さんに自ずと目が向き、ニュースなどで子どもたちを巡る痛ましい事件や虐待などを見聞きすると、心が沈む思いがします。自分の意志で何か作用を及ぼしている、動かしている、変えている、といういことよりも、未知の力や作用に自分が変えられていることのほうが、圧倒的な実感が伴うのだということも妊娠に伴って気づかされたことの一つです。
以前から好きだった写真家、Flor Garduno の写真集『Inner Light 』の表紙を飾る、長い髪を垂らし、猫(虎?あるいは彪?)の置物の上に目を閉じて仰向けに横たわる女性の写真。写真集のページを繰ると、女性の体や果物、植物や静物をとらえた写真が続き、終わりに近づいて再び登場する彼女のお腹は大きく膨らみ、髪はさらに伸びて、肘を大きく持ち上げて、体を反らせています。
妊娠する前からこの写真集は度々手に取り、この二枚の写真も度々見てはいたものの、自分のことに重ねあわせて想像したことはありませんでしたが、今や自分自身の経験に非常に近しいもの、これから数ヶ月の間に起きることの具体的なイメージを与えてくれるものに映ります。
妊娠に限らず、経験がものの見方や感じ方を劇的に変えていくことと共に、未知とは自身の外にあるだけではなく、内側に潜むものであることに感じ入ります。
5月12日には東京工芸大学で写真と出版に関連するテーマで特別講義をさせて頂いたり、また5月16日にはRICOH RING CUBEのワークショップ「モテる写真」で、写真集に関するお話をする機会が続いたこともあったりするので、twitterでも電子書籍に絡む話題をフォローすることが多かったりします。出版産業に少しながら関与する者としては、Google Editionsなどの展開 も興味深いところではあります。
写真史という研究分野の片隅に身を置いてきた立場としてみれば、Google Booksでパブリックドメイン化されているグラフ雑誌「ライフ」のバックナンバーのデータ は、雑誌というメディアの歴史を知り、伝える素材として重要なものです。もちろん、実際の印刷物に触れて、その大きさや手触りを実感するのが一番良いのですが。
写真家、主題、編集方法など、さまざまな切り口からバックナンバーを拾って見ていくと、興味深い発見があります。以前にも何かの本で指摘されていたように思うのですが、1965年に掲載された2つの記事が、内容、編集方法という点で比較して見ると、非常に印象深い。
一つは1965年4月30日号に掲載された、スウェーデンの写真家、レナート ・ニルソン が内視鏡を使って撮影した胎児の生育過程を追ったDrama of Life Before Birth
もう一つは1965年6月18日号に発表された1965年6月3日にアメリカ人初の宇宙遊泳を行った
エドワード・ホワイト をフィーチャーした
The Glorious Walk in the Cosmos
どちらも、16ページにわたるフォトストーリーで、胎内と宇宙という空間をダイナミックな構成で紹介しています。2カ月足らずの間で掲載されたこれらのストーリーを目の当たりにしたことで、胎児と宇宙飛行士という存在のありようと、それが眼前に可視化されていしまったことに衝撃を受けた人も多かったのではないかと想像します。2つの表紙は限りなく似ている。
公共化された資料を素材にして、いくつかの軸を設けながら、写真、フォトジャーナリズムの歴史を解説するレクチャーや、文章の執筆を考えてもいいのかも、と思っています。
昨年グラフ雑誌「ライフ」の全てのバックナンバーがGoogle Booksで公開された ことは、以前のエントリーでも言及したことがあったのですが(Life on Google Books ),「Popular Science 」もGoogle Booksで公開されています 。
「ライフ」誌は1936年から1972年の36年分でしたが、Popular Scienceは137年分。しかも、現在も刊行が続けられている雑誌。Make: Japan での紹介より引用。
私たちは、Googleと共同で、137年間分のアーカイブを無料で閲覧できるようにしました。どの号も、発売された当時そのままです。当時の広告もその まま入っています。これは、時代ごとに移り変わりる、私たちの未来への憧れと、私たちの生活を改善する科学技術の驚くべき可能性をカプセルに閉じ込めた感 動の資料です。みなさんも、私たち同様、存分にお楽しみください。
科学技術の発展にかかわるトピックを拾い上げるだけではなく、雑誌の作り方、印刷技術の変遷を辿って見ていくのも興味深いところ。万国博覧会に関連する記事では、”Robot Cow Moos and Gives Milk”(ロボット乳牛モーと鳴き、乳を出す)という素敵な見出しもあり、版画の挿絵も味わい深い。
Popular Science + というiPad 版もリリースされていて、雑誌の編集技術とデザインが操作性という視点からとらえ直されているところが興味深いところです。ページの切り替え、移動は横にスクロールさせ、文章やキャプションの移動は縦スクロールさせ、画面の方向(縦位置、横位置)の変化に対応できるように、画像の選択、配置を行うということなど。
Mag+ live with Popular Science+ from Bonnier on Vimeo .
電子書籍化の流れは、雑誌や書籍を制作してきた組織体がそれまで蓄積し、築き上げてきたコンテンツを(ある程度)公共化することに連動していて、publicationという言葉(出版/公共化)のありようが問い直されるようになるのだろうな、と思います。法的、権利関係的なことでクリアされるべき問題はさまざまにあるのでしょうが。
iPadはいまのところ購入する予定はありませんが、日本語圏の出版のありようも、この先数年で大変動するのでしょうね。。
来週、東京工芸大学で特別講義をすることになっているので、今興味を持っている、写真と出版、書籍の関係についていろいろと調べているところです。電子書籍、AR(拡張現実)3Dの技術にかかわる昨今の展開や、今後の展望なども含めて、出版と写真、画像を見る経験について事例を紹介する、という内容になるかと思います。
イタリアのFacoltà di Architettura Valle Giulia という学校で制作されたCG「教育技術の未来」
建築を学ぶ学生が、図書館で本を開いて、特殊な眼鏡をかけると、ページの端にタブが現れて、画像や、動画、立体モデルが本から立ち上がったり、展開するというもの。
タッチパネル操作と結びつけられる本の将来像の描き方として興味深いところ。
欧米のアート系大手出版社PHAIDONでは、4年前に刊行されたPhaidon Design Classic sがipadのアプリケーションとして期間限定で販売されています。
以下内容は、amazon.co.jpからの引用。
『Phaidon Design Classics』は、デザイン名品の、総括的で権威ある初めてのコレクションだ。本書は3巻からなり、美しい写真入りで、専門家グループが入念に選定し た999点の工業生産品を紹介している。広範囲にわたる製品の詳細を収録し、デザインの発展を実例を挙げて示した資料集の決定版である。
自動車から家具、食器具からカメラ、日用品から飛行機に至るまで、これほど幅広くデザインを網羅したものはかつてない。本書は、1600年代の終りから現 在に至る世界中のデザイン進化を解説し、特許や試作品、 古い広告、原画、制作過程の紹介画像、およびアーカイブ化された珍しい写真をまとめている。この名品集には、実に4000点もの画像が収録されている。………..本書には、ブロイヤー、ル・コルビュジエ、 ドレフュス、イームズ、柳宗理、カスティリオーニといった世界的に名高いデザイナーの手によるものだけでなく、洗濯ばさみ、コルク栓、箸など、デザイナー 名は明らかではないがデザイン性と機能性において完成された、改善の余地がない作品の数々が収録されている。
紙版の出版物のコンテンツのデータに加えて、操作、検索の機能を具えているわけです。3冊組の本は価格100ポンドに対して、ipadアプリケーションは2300円。レファレンス性、情報の編集精度が高いコンテンツが提供されるようになっていけば、価格設定の仕方も含め、これからの展開も興味深いところ。美術館の展覧会のカタログなど、資料的な価値があっても、流通する機会、経路、保管に障害の多いものが、アプリケーション化されると良いのでは、とも思います。
かれこれ2カ月以上集中して取り組んでいたFOTOBOX の翻訳作業に一区切りつき、ゲラ校正も終わりました。納品したデータの文字カウントしたら30万字で、自分がこれまでに手がけた本の翻訳の中ではかなりボリュームのある方です。(翻訳を専門の仕事にしておられる方にとっては、そんなに大した量ではないのかもしれませんが。)
この本は、見開きで、右側のページに写真が一点掲載され、その写真についての解説文と、撮影した写真家の略歴が添えられています。合計250点の写 真が紹介されていて、ルポルタージュ、戦争、ポートレート、ヌード、女性、旅行、都市、アート、ファッション、静物、スポーツ、自然という12のカテゴ リーが設けられています。紹介されている写真は、著名な写真家による良く知られている作品も多く、写真の黎明期から現代美術家の作品も含まれ、写真史の入門書的な本としてもお奨めできるものです。 図版の印刷も良いですし。イタリアのContrasto という写真エージェンシーの関連出版社が作っている本なので、取り上げられている写真家もイタリア人が多く、日本語圏ではほとんど紹介されたことのない作家の名前も眼にします。作業中に、掲載されている写真家のことを色々と調べるうちに、ご本人の名前や財団で作られているウェブサイトに行き当たったりすることが多かったので、日本語版には、それぞれのサイトのURLをページの末尾に掲載しています。イタリア語版、英語版にはウェブサイトの情報はほとんど掲載されていないので、日本語版の特典、ということで。一枚の写真を見て写真家に興味を持った方がそのサイトにアクセスして、ほかの作品を知る機会が増えたらよいな、と思っています。
写真家のサイトは総じて背景に白や黒、グレーを使って、写真をすっきりと際立たせてみせようとするデザインが多いのですが(例 Horst P. Horst) 、ファッション、エディトリアル関係の写真家のサイトは、より派手な演出をほどこしたものもあって、(例 David LaChapelle )写真家の作品の性格とウェブサイトのつくりかたを見比べて見るのも面白い。写真家を志す人、web上での写真のプレゼンテーションの仕方を模索している人にとっても参考になるかもしれません。この本がウェブサイトにアクセスするための一種のプラットフォームになるかも、と思います。
この作業をしている最中にipadが発売されたり、電子書籍を巡る話題が以前にも増して多くなってきました。アアート関係の本や写真集は、国内の出版社が刊行するものであれ、外国(多くの場合は西欧諸国)から輸入されるものであれ、単価が高く、流通量、取り扱う書店も多くはありません。
翻訳や文章を書く仕事に僅かに携わりながら、出版物の行く末を案じますが、電子書籍、ipad云々言う前に、 紙で作られてきた書物や雑誌の歴史の厚みを知らないとダメなんじゃないか、と確信を込めて思います。
temp pressの澤辺由記子さん のご紹介で、東京都板橋区にある内外文字印刷株式会社に、マレビトスクールのメンバー
久保元幸さん と、建築家の
松畑強さん と一緒に見学にお邪魔しました。
代表取締役会長の小林敬さんから頂いたお名刺には「どこまでもグーテンベルグ わたしたちは金属活字活版印刷tで本造りを続けます」という宣言のお言葉。午前中いっぱいのお時間を頂いて、馬棚にぎっしりと並ぶ活字や、活字を鋳造する機械、文字を拾う作業、文字を組んでページを作る作業、印刷の作業を見せて頂き、いろいろとお話を伺いました。自分が生まれる前から使われ続けている機械が働く様子や、鋳造される一つ一つの文字のモノとしての存在感、指先に眼がついているかのように仕事をされる職人の方たちの所作に圧倒されたひとときでした。
DTP、インターネット環境にどっぷりと浸かって生活している自分のことを振り返ると、人の発する言葉が活字として立ち現れ、離れたところにいる人の眼と手のもとに届けられるまでに、途方もなく手の込んだ行程を要していたこと、今の文字伝達環境が長い歴史と技術の蓄積の上に成り立っていることを忘れてしまっています。本や雑誌の原稿執筆や、翻訳の仕事をするという立場で、印刷物の生産にかかわっているものの、キーボードを叩き、データのやり取りをすることが作業プロセスのほとんどを占めていて、手で紙の上に文字を書くこともほとんどないし、ゲラ刷りの確認ぐらいしか、紙の上で作業をすることはなくて、出来上がった雑誌や本が手元に届けられても、それによってモノを作っているという実感が得られることはあまりなかったりするのです。
世の中の趨勢から、過去にそうであったように活版印刷が産業として成り立つということは今後ないのだと思います。しかし、技術の成り立ちを知り、そのプロセスをたどり、その手触りや音、匂い、重み、温度といったことも含めて触れておくことは今、必要なことなのではないか、とも思うのです。